1 製造業における挟まれ事故・巻き込まれ事故について

工場のような製造業の現場で働いていると、機械や器具が作動しているところに人が挟まれたり、巻き込まれたりしてしまう、といった労災事故が発生することがあります。

このような危険な作業に従事している場合、機械や器具の操作について使用者から一定の注意喚起がされていることと思います。
しかし、製造業で用いられる機械や器具は、使い方を誤ると重傷を負ったり、最悪の場合には死亡事故となったりすることもあります。

挟まれ事故として最も多い類型は、手が挟まれる事故となります。
手で作業をする際には、足のように安全靴といった保護具がないことが多いためです。
手が機械や器具に挟まれたり、巻き込まれたりした場合には、指や腕の切断といった重大事故になることは容易に想像ができます。

また、手にとどまらず、頭部や身体全体が挟まれたり巻き込まれたりする事故の場合には、命の危険につながることもあり、死亡事故も実際に発生しています。

このような機械や器具を扱う製造業の現場では、管理するのが人であるため相当数の事故が発生してしまいます。
製造業における挟まれ事故・巻き込まれ事故については、労災保険の申請や加害者側の会社に対する損害賠償請求により、被害者を保護する必要があります。

2 労災保険の申請

労災保険の申請を行うためには、労働基準監督署において手続きを行うことになりますが、加害者側の会社が労災申請に協力してくれないことがあります。
このような場合、会社が労災申請に協力してくれなかった旨を労働基準監督署に説明することにより、被害者自身において労災申請の手続きを行うことが可能です。

労災と認定されるためには、その事故が「業務災害」であることが必要となりますが、「業務災害」と認定されるためには、「業務遂行性」と「業務起因性」の双方が要件として必要となります。

「業務遂行性」とは、被害者が加害者側の会社と労使関係のもとにあることをいいますが、具体的には、被害者が労災保険法の適用を受けている事業主のもとで働いていることを指します。
この「業務遂行性」の要件については、所定の労働期間内や残業時間内に起きた事故については特に問題にはなりません。
しかし、例えば、業務上の指示がなく私用を行っているときに生じた事故や、休憩中や終業時間前後における事故についてはこの要件に該当するかが問題となります。

次に、「業務起因性」の要件については、被害者が従事している業務と被害者が負った怪我との間に因果関係が認められることをいいます。
機械や器具に挟まれて負傷したケースについては、被害者が従事する業務が持つ危険性が現実化したものとして、因果関係が明白に認められ、この要件が問題となることは少ないと思われます。

また、労災保険では、後述する使用者の安全配慮義務違反や過失は要件とされず、仮に被害者に過失があっても過失相殺がされることはありません。
もっとも、労災保険によって被害者の損害額のすべてが補填されるものではありませんし、物損や慰謝料は補償の対象外となるため、この点を請求するためには示談交渉・民事訴訟による解決を図る必要があります。

3 会社に対する損害賠償請求

会社は、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負うとされています。
これを安全配慮義務といいます。
加害者側の会社において安全配慮義務違反が認められる場合には、会社に対する損害賠償請求を行うことができます。
製造業における挟まれ事故・巻き込まれ事故では、例えば、機械や器具について、操作上の注意事項を十分に周知・教育していなかった場合、古くなった安全装置を取り換えていなかった場合、不適切な改造等を行っていた場合などが、安全配慮義務違反として考えられます。

また、安全配慮義務違反が認められない場合でも、例えば、加害者自身やその被用者に過失が認められる場合には、民法709条(不法行為責任)や715条(使用者責任)に基づく損害賠償請求を行うことができます。

【不法行為責任】
不法行為責任とは、故意または過失により被害者に損害を与えた場合に、加害者が損害賠償責任を負うことをいいます。

【使用者責任】
使用者責任とは、会社と使用関係にある被用者が、会社の業務を遂行する過程において、故意または過失により被害者に損害を与えた場合に、会社が損害賠償責任を負うことをいいます。

労災保険から受け取ることができる金額は治療費や一部の休業補償にとどまるため、慰謝料等その他の損害賠償を受けるためには、別途、加害者に対し請求することになります。
示談交渉を試みても加害者が支払いに応じない場合には、民事訴訟を提起することになります。

4 会社に対して責任を追及するために

このように、労災事故に遭った場合には、労災保険から補償を受けることの他に、加害者に対し損害賠償請求をすることが可能な場合があります。

しかし、一般の方が加害者側の会社と交渉を行うことは極めて負担が大きく、事故状況や損害額に関する資料を収集することも容易ではありません。

損害額を算定することも困難を極め、仕事ができなくなった場合の休業損害はどの範囲で認められるのか、慰謝料はどのくらいの金額が妥当なのか、後遺障害が残る場合には逸失利益としてどの範囲まで請求していくのか、といった難しい問題がいくつもあります。

加害者となる会社においても、被害者に落ち度があったとして、過失相殺の主張をしてくることや、そもそも安全配慮義務違反や過失が一切認められないとして責任を全否定してくることも考えられます。

また、損益相殺といって、被害者が事故を原因として受け取った利益をどの範囲まで損害額から控除するのかという問題もあります。
例えば、判例上、労災保険から支払われる傷害特別支給金や将来の支給が見込まれる労災保険年金や厚生年金、被害者が被保険者となっている生命保険金について、損益相殺の対象とすることは認められていません。

このような問題が生じた場合には、被害者においても適切に主張・立証を行う必要があります。
しかし、一般の方がどのような事実を主張し、何を証拠として提出すべきなのか適切に判断することは難しいでしょう。
弁護士であればそのような必要な資料を速やかに収集して、解決に向けて活動することができます。
挟まれ事故・巻き込まれ事故に遭われた被害者の方やご遺族の方は、労働災害に詳しい当事務所の弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。

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