1 労働災害における第三者行為災害とは?
労働災害における第三者行為災害とは、労災保険給付の原因である災害(通勤中や仕事中の怪我や病気)が、第三者の行為などによって生じたもののことをいいます。
この場合、当該第三者は、労災保険を受給する権利を有する者(被災労働者または遺族)に対して、損害賠償をする義務を負っています。
ちなみに、「第三者」とは、労災保険の保険関係の当事者以外のことをいいます。
具体的には、事業者、労災保険を受給する権利を有する者及び政府以外の者のことをいいます。
2 第三者行為災害となるケース
第三者行為災害となるのは、以下のようなケースが考えられます。
(1)仕事での移動中や、通勤途中で交通事故に遭ったケース
自動車やバイク、自転車、徒歩の他、電車やバスといった公共交通機関を利用している際に事故に遭った場合も、このケースに当てはまります。
もっとも、あくまで第三者の行為に原因がある必要があるので、ご自身の過失が100%の場合の事故は、第三者行為損害とはいえません。
(2)他人から暴行を受けたり、他人が管理する動物によって負傷したケース
飲食店の従業員がお客さんから暴行を受けた場合や、タクシー運転手が乗客から暴行を受けた場合など、従業員が顧客から暴行を受けて負傷した場合には第三者行為災害に該当します。
また、通勤している際に散歩している犬に嚙まれた場合や、業務中に訪問した場所において動物から危害を加えられて怪我をした場合のように、他人が管理する動物によって負傷したような場合も、第三者行為損害に該当します。
(3)他の従業員が運転する重機によって負傷したケース
業務中に、他の従業員が運転・操作しているフォークリフトの積み荷と体が接触した場合や、トラックに轢かれた場合など、自分以外の従業員の行動が原因となって怪我を負った場合も第三者行為災害に該当します。
他方で、業務中の他の従業員の行為によって負傷した場合であっても、従業員同士の私的なトラブルが原因で負傷した場合は、第三者行為災害には該当しません。
3 第三者行為災害における労災申請と損害賠償請求
(1)労災保険給付金と損害賠償金の支給調整
第三者行為災害の場合、第三者によるものではありますが、通勤中や業務中に発生した災害ですので、労災保険に対して給付金を請求する権利を有します。
他方で、被害者は、加害者(第三者)に対して、不法行為に基づく損害賠償請求をする権利を有します。
この2つの請求は、どちらを行使しても構いませんが、同一の損害項目について、両方から金銭を受領するとなるといわゆる二重取りとなってしまい、実際の損害額より多く支払を受けることができることとなってしまうので、労働者災害補償保険法(12条の4)において、労災保険給付金と損害賠償金との支給を調整することが定められています。
具体的には、次の2つのいずれかの処理がなされることとなります。
【労災保険給付金の受領が先の場合】
加害者の不法行為があるケースでは、被災者の損害を最終的に負担すべきなのは加害者です。
そのため、政府が被災者に対して労災保険給付金を支給した場合、政府は、被災者が第三者に対して持っている損害賠償請求権を取得して、加害者に対して請求(求償)するという形で支給金が調整されることとなります。
【損害賠償金の受領が先の場合】
被災者が、加害者から損害賠償金を先に受領している場合、政府は、労災保険給付金から賠償された価格の限度で、労災給付をしない(控除)という方法で支給金を調整することができまます。
(2)労災申請に必要なものと手続の流れ
第三者行為災害に遭い、労災保険の給付を受ける際の手続きは、基本的には通常の労災保険の請求手続きと同様となりますが、通常の提出書類に加えて、「第三者行為災害届」という書類も、所轄の労働基準監督署に提出する必要があるので、この点は留意しておく必要があるでしょう。
添付書類名 | 交通事故 による災害 |
交通事故以外 による災害 |
備考 |
交通事故証明書又は交通事故発生届 | 〇 | - | 自動車安全運転センターの証明がもらえない場合は「交通事故発生届」 |
念書(兼同意書) | 〇 | 〇 | |
示談書の謄本 | 〇 | 〇 | 示談が行われた場合(写しでも可) |
自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書又は保険金支払通知書 | 〇 | - | 仮渡金又は賠償金を受けている場合(写しでも可) |
死体検案書又は死亡診断書 | 〇 | 〇 | 死亡の場合(写しでも可) |
戸籍謄本 | 〇 | 〇 | 死亡の場合(写しでも可) |
念書(兼同意書)という書類について補足しますと、この書類は、被災者が不用意な示談をすることによって労災保険給付を受けることができなくなることや、受領した労災保険給付を回収されるといった損失を被ることを防ぐためのものです。
注意事項が記載されているので、内容を理解した上で、被災者自身で署名する必要があります。
添付書類名 | 交通事故 による災害 |
交通事故以外 による災害 |
備考 |
交通事故証明書又は交通事故発生届 | 〇 | - | 自動車安全運転センターの証明がもらえない場合は「交通事故発生届」 |
念書(兼同意書) | 〇 | 〇 | |
示談書の謄本 | 〇 | 〇 | 示談が行われた場合(写しでも可) |
自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書又は保険金支払通知書 | 〇 | - | 仮渡金又は賠償金を受けている場合(写しでも可) |
死体検案書又は死亡診断書 | 〇 | 〇 | 死亡の場合(写しでも可) |
戸籍謄本 | 〇 | 〇 | 死亡の場合(写しでも可) |
念書(兼同意書)という書類について補足しますと、この書類は、被災者が不用意な示談をすることによって労災保険給付を受けることができなくなることや、受領した労災保険給付を回収されるといった損失を被ることを防ぐためのものです。
注意事項が記載されているので、内容を理解した上で、被災者自身で署名する必要があります。
被災者が提出する書類は以上のとおりですが、第三者(加害者)は、災害発生状況や損害賠償金の支払状況等を記載した第三者行為災害報告書を、労働基準監督署から提出が求められた場合には提出する必要があります。
(3)加害者に対する損害賠償請求
労災保険給付金においては、治療費、休業による逸失利益、身体障害による逸失利益、介護費用、葬祭費といった損害項目は支給の対象となります。
もっとも、慰謝料や、交通事故の場合の自動車の修理費用などの損害項目といったものは、労災保険給付金の対象外であり、このような損害を補填するためには、加害者に対して損害賠償請求をしていく必要があります。
4 第三者行為災害を弁護士に依頼するメリット
労災における第三者行為災害に遭った場合、労災保険給付金を受領するための必要書類が多く、損害賠償金と労災保険給付との調整の兼ね合いを考えて対応していく必要があります。
また、第三者からは、示談の提案がなされることがありますが、安易にこれに応じてしまうと、適正な賠償金を獲得することができなくなってしまう可能性もあるので、被災者の方が対応していく場合にはリスクも伴ってきます。
弁護士を依頼することで、弁護士が被災者の方と協議の上、事件解決までの道筋を立てて、事件対応の窓口となって対応していくことができます。
5 第三者行為災害に関するお悩みは当事務所にご相談ください
労災の第三者行為災害に関する制度は、加害者に対する損害賠償請求と労災保険給付を調整するために整備された仕組みですが、内容は複雑です。
第三者行為災害に関してお悩みの方は、一度当事務所にご相談いただければと存じます。
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